よく、在庫は付加価値を生まないといわれて百害あって一利なしのように扱われていますが、本当に悪なのでしょうか。
食料品の場合、たしかに腐る場合があるので売れる分しか持ちたくない。では、腐らない物ならどうでしょうか。
服の場合ならデザインの陳腐化やパソコンは機能の進化など売れなくなる可能性があります。ならば、ティッシュみたいに腐らない、陳腐化しない、機能の進化もそれほどないものならどうでしょう。
しかも、必ず一定数が消費されていきます。ティッシュの世界にイノベーションが起きて別の物に置き換わらないかぎり在庫を大量に持っても問題がないように思いませんか。
今回はいろいろな視点から在庫を持たない方がいいと言われる理由について考えてみます。
在庫とは
そもそも在庫とは、何かいいますと製造業を例にすると、まずは「部品や原材料」、「仕掛在庫」、「製品」などの3種類の在庫があります。
(1)「部品や原材料」 物を製造するときの元になる物
部品がネジやボルト、ナットなど
原材料は、少し複雑で原料と材料の二つにわかれ原料は加工した後に原型をとどめていない物、加工や調合をして使うものになります。
例えば、オレンジジュースを作るときにオレンジ、ジュースにすると原型がなくなります。
材料は加工をしても原型をとどめている物で例をいうと家具などにつかう木、加工をしても原型をとどめています。
(2)仕掛品
製品を作る工程で生産される物で工場内の工程間で置いてある在庫、工程を進むごとに形が変化していく物で仕掛品の状態では販売ができないもの
(3)完成品
販売ができる在庫のことです。
なぜ、在庫を持つのか?役割とは?
なぜ、在庫を持つのでしょうか。在庫が悪なら1つも持たなければいいはずです。
在庫をもつ理由を考えるとお客様から注文が入ったときに在庫がないと売上の機会を損失する可能性があります。
商品がどこでも購入できる物なら在庫がない場合は、他のお店でお客様は購入することが考えられます。
在庫を持つ理由のひとつは、お客様への商品を供給するためのリードタイムを短縮するためにあります。

物を製造する視点から考えると製品Aを作るのに「工程1」→「工程2」→「工程3」を通るとします。
もし、「工程2」の人が作業をしたいときに「工程1」の人の作業が終わっていなかったらどうでしょうか?「工程2」の人と「工程3」の人は待ち時間が発生します。
各工程間に在庫を持っておけば、前の工程の作業が終わっていなくても次の工程の人が作業ができます。
生産において在庫を持つ意味は各工程間の供給の変動に対応するために持つのです。要は在庫があることによって生産性が上げているとも言えます。

在庫の役割は「お客様を待たせないためにある」、「生産が止まらないようにするためにある」の2点で、需要と供給の変動に対応するために在庫があります。
在庫をお金の視点から考えてみる
完成品を販売するお店では商品を仕入れます。
500円の商品を10000個仕入れて500万円です。
同じように工場においても材料を仕入れて加工を進めていきますが、工場の場合、材料の在庫、工程間にある在庫、完成品の在庫と複雑です。
- 材料が 100万円分
- 工程間在庫に 100万円分と
- 完成品が 300万円
があるとします。
在庫をたくさん持つと言うことは、お金をたくさん倉庫しまっているような物です。
企業を経営していく上で大事となってくるのが資金繰りです。
収入と支出を管理して、お金が不足するような状態にならないようにしなければいけません。
在庫をたくさん持つことによって現金がなくなり、売上が好調なのに手元にお金がなく借入金などの返済などできなり、会社が倒産することがあります。
在庫はお金の観点から考えても企業の経営に大きく影響します。

会計の視点から考えると在庫が増えると企業の利益が増えます。
利益が増えると言うことは税金も増えます。この意味について考えてみます。
例として会社の2020年の売り上げが1000万円で売上原価が800万円です。売上総利益は200万円になりました。
販売管理費などを引き税引き前の利益が100万円となり法人税を40%としてのこり60万円が2020年の純利益となりました。ここで在庫が関係していくるのが売上原価です。

売上原価の原則として商品を作る・仕入れても売れていない分は原価に含めない(在庫は含めない)決まりがあります。
そのため図の公式になりますが。売上原価 = (2019年の年末在庫高+2020年の商品・材料の仕入れ高)ー 2020の期末在庫高

先ほどの公式を在庫が200万円残っている場合と300万円残っている場合を考えてみます。
在庫200万円残っている場合は
(期首在庫100万円 – 仕入れ 900万円)- 期末在庫200万円 = 売上原価 800万円
在庫300万円残っている場合は
(期首在庫100万円 – 仕入れ 900万円)- 期末在庫300万円 = 売上原価 800万円

先ほどの計算を損益決算書に当てはめてみます。
在庫が200万の場合は
材引き前利益が100万に対して法人税40万引かれて60万の利益が残りました。
在庫が300万の場合は
材引き前利益が200万に対して法人税80万引かれて120万の利益が残りました。
在庫が増えることによって支払う税金も増えて、純利益も増えました。
在庫が増えるれば増えるほど税金と利益が増えていくのです。
損益決算書は会社を経営していく上で大事な指標の一つですが、基本的に決算書上で赤字になっても会社は潰れません、
いつ会社が潰れるのかというと会社のお金がなくなったときです。

まとめ
在庫を持つと言うことを考えると、需要と供給の変動に対応するために在庫は持った方がいいという考え、在庫の陳腐化や資金繰りを悪化させないために在庫を持ちたくないという両極端の考えが存在します。
在庫管理のジレンマを解決に向けて、適正在庫を目指すための道具を一つ紹介します。
「トヨタ生産方式のカンバン」は「必要な物を、必要なときに、必要な量だけつくる(購入する)」カンバンは適正在庫を管理する道具です。
「在庫を持たなければいけない」と「在庫は少なくしなければいけない」という両極端の在庫のジレンマをカンバンの枚数で調整します。最小の在庫で最大の利益を目指した適正在庫を目指す糸口になればと思います。